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津家庭裁判所四日市支部 昭和59年(家イ)82号 審判 1984年7月18日

申立人 高田俊雄

相手方 今万里子

相手方法定代理人親権者母 今登喜子

主文

申立人と相手方との間に親子関係が存在しないことを確認する。

理由

一  申立人は主文同旨の審判・調停を求め、その実情として次のとおり述べた。

1  戸籍上、相手方は申立人を父、今登喜子を母として昭和五九年二月二〇日に出生したものとされている。

2  確かに申立人は、昭和五八年三月一二日今登喜子と婚姻し、昭和五九年五月一日協議離婚するに至るまで、今登喜子と相手方の住所地で同居していた。

3  しかし、申立人は、相手方の出生後、名古屋第二○○○病院で医師の診断を受けたところ、先天的な無精子症と診断されたので、婚姻中であつたとはいえ、今登喜子が申立人の子を壊胎することはあり得ないわけである。

4  それ故、相手方が申立人の子でないことは明らかであるから、申立人は相手方との間の親子関係の不存在の確認を求めるべく、本件申立に及んだ。

二  ところで、民法七七二条の嫡出推定に関して、もともと嫡出推定・否認の制度が家庭の平和を保護することをその趣旨とするものであることに鑑みれば、離婚等により家庭の平和がすでに崩壊し、その当事者のいずれもが真実に合致しない形式的身分関係の消滅を望んでいるときは、右制度の基盤が失われたものとして、いわゆる真実主義との調和の観点から、長期間の別居等外観上懐胎不能の場合に限らず、夫の無精子症等科学的に壊胎不能の場合も前記法条の適用が排除されると解するのが相当であり、この場合の身分関係の確定は嫡出子否認によらず、親子関係不存在確認によるべきである。

三  本件に関し、昭和五九年七月一〇日に開かれた当裁判所調停委員会の調停において、申立人と相手方間に主文同旨の裁判を受けることについて合意が成立し、申立人の主張する親子関係不存在に関する事実について争いがないので、当裁判所は必要な調査をなしたところ、申立人が申立の実情として述べた1ないし3の事実が認められた。

しかして記録上、申立人は、本件申立時においてはなお今登喜子と婚姻中であつたことが認められるが、昭和五九年五月一〇日に離婚したことは前認定のとおりであるから、本件は二で説示した場合に該当することが明らかであるというべく、前記当事者間の合意を相当と認め、家事調停委員○○○○、同○○○○○の各意見を聴いたうえ、家事審判法二三条に則り、主文のとおり審判する。

(家事審判官 油田弘佑)

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